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甲武信小屋温泉

大抵の山小屋には風呂があるものである。登山者向けに開放していな い小屋でも従業員向けの風呂はまずない小屋はないと思っていい。2 週間も1ヶ月も風呂に入らずに働きつづける小屋番ではお客さんに接 することはできない。

風呂の評判は、たいてい水場の潤沢さと一致するものである。僕は小 屋経験は少ないほうだが、今までいった小屋の中でいえば、いちばん よかったのはくろがね温泉小屋である。当たり前だ、温泉なんだから。 内湯のみだが、あの乳白色のお湯は絶品といっていい。同じお湯を引 き湯している下の岳温泉よりも間違いなく素晴らしいと言えるだろう。

温泉でいうと、小屋からはだいぶ離れるが北アルプスの高天原温泉は 1度経験しておきたいところだ。トレランでもしない限り下界からは どこからも1日でたどりつくことはできない、秘境中の秘境である。 それから、白馬鑓温泉も捨てがたい。年によって温度は変わるそうだ が、この温泉ほどあつすぎずぬるすぎずの風呂は、下界も含めて他に 知らない。


沸かし湯に限定すると、八ヶ岳ではたとえば赤岳展望荘にもお風呂は あるが、湯量が少なくあまり評判はよくない。やはり下のオーレン小 屋などの水の潤沢な場所にはかなわないだろう。だが、あの、水もペッ トボトルで売っている場所に風呂があること自体が驚きである。

僕は山行中は風呂はどうでもいいや派である。あっても入らないこと もあるし、下山してから温泉に入って帰ることもあまりない。ある年 の南アルプスの縦走で、縦走六日目。あまりお金がないので風呂をと るかビールをとるかで、ビールを取った人だ。だが、本当に風呂 に助けられたことがある。槍から剱への縦走をした年があったのだが、 もう、ひたすら雨。テントだったのだが、2日から雨、雨、雨、雨と 続いてついに乾き物がなくなってしまって、五色ヶ原でついに小屋に 泊まった。体も冷えていたし、この風呂のおかげでずっと調子が悪かっ た筋肉疲労から開放されて翌朝また調子よく歩くことができた。だが、 これが露天となるとまた覚悟が違う。最近、白馬から祖母谷へおりる ルートを歩いたのだが、これがまた2日目はだだ降りの雨。やめとけ ばいいのに強行したものだから、やっぱり体は冷えた。温泉だからやっ ぱり入りたい。だけど…
入れば入るほど濡れものが増える。誰もお客さんのいない日に1人、 雨の中ちょっとみじめな思いをして、無理して入った。無理して入っ て、やめとけばいいのにもう1回無理して入った。入ってるときはい い気分だったが、もうテントまで帰りたくはなかった。テントに帰る と冷えるのである。

どうせ風呂に入るのなら、展望がある方がいい。前述の白馬鑓温泉は 僕がいったときはガスっていたのだが晴れていれば絶景なのだそうだ。 僕が絶景にあたったのは尾瀬の弥四郎小屋と、あとは蓮華温泉。

小屋番がお客さんの前で、ちょっくら風呂入ってくる、とか言ってい るので多分公然に近いと思うのだが、甲武信小屋にも従業員用の風呂 はある。あるが、簡単には入れない。まず、小屋明けしたら、入り口 の雪をかかないといけない。それが終わったら、今度は水だ。だから、 ヘリで小屋に入って、最初の風呂は3日目くらいになる。僕も詳しい ことはわからないのだが、その後は毎日ではなく、週に2回くらい、 雨歩荷の日などに風呂を入れているようだ。

水はいちおうお客さんの立場の僕の力量ではどうすることもできない が、小屋明けに入って荷物が搬入できると、僕は最初に雪かきするの は風呂と決めている。風呂が掘り出される頃には水の準備も整って最 初の風呂、ということになる。

僕がたまたまアルバイトで入った槍沢ロッヂは、槍岳山荘と同じグルー プで地理的に下に位置するのだが、上の小屋番が下まで髪の毛を洗い にくることがあった。理由は聞かなかったが、水が凍ったり、もしく は渇水で水が干上がったりすると当たり前だが風呂には入れない。槍 沢ロッヂはお客さん用の風呂があるので毎日風呂に入れる贅沢な山小 屋だった。


甲武信小屋の風呂は従業員用であるが、もちろん僕は入れてもらった ことがある。僕らの中では通称甲武信小屋温泉と呼ばれている。風呂 小屋の中にある、木づくりの桶で家庭用のお風呂と同じくらいのサイ ズである。水は笛吹川の源流の水。サンダルで入りにいくとくつ下が メチャメチャに濡れるので、帰りははだしで雪に足をつっこみながら 冷たい冷たいと帰ってくるのがお約束である。1人づつ順番に入って、 最後は洗濯のお湯になる。

どうせ風呂に入るのなら、展望がある方がいい。甲武信小屋の風呂は すりガラスで外が見えない。あるとき、お客さんがいなさそうだった のでよっしゃ今日は雪見風呂だとか言って、入り口のドアをあけて風 呂に入った。

見えたのは、自分で掘った雪の壁だけ。そして、風が容赦なく入り込 んで寒いだけだった。

(2015.5.7 12:3)(by script)




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