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徳本峠の思い出

島々谷林道の起点にテントを張ったことがある。

その日、僕は新島々の駅の前のベンチに座って、空を眺めながらビールを飲んでいた。今のと ころ晴れてはいるが、明日からしばらく雨が続くのはわかっている。駅前で宿を取るつもりだった が、あいにくお盆期間であきがない。
電車がやってくると少し騒がしくなるが、人波はみんな上高地行きのバスに飲まれてほどなく静 かになる。もちろん、あれに乗る気なんかさらさらない。
まっとうな登山者は荷物を片手にみんなバスに乗り込みます。そして、上高地へ向かって小梨平 でキャンプすることでしょ う。バス停に並んでいる人を、少し離れたところからうらやましい思いで 眺めます。同じ登山者なのに、何か気持ちは違っていて、自分だけが孤立しているような気分にな ります。

何をしているんだろう。なんでこんなことをしているんだろう。

夏の長い日ももう黄昏てきた。この日の宿をどこかに確保しないといけない。いい具合に酔って できあがってしまった僕は、この日山行史に残る愚かな判断をすることになった。
「今日は島々宿までいって、どっか適当なところにテント張ってひっくりかえって寝ちまおう」
そう決めると、足にばんそうこうを貼り終えた僕は再び歩き始めた。

とても歩ける足ではない。今日も12時間40キロを歩いて身も心もボロボロだった。
ほどなくして上高地行きの最終バスに追い越されます。もう、行き先は決まった。もう誘惑はあり ません。今日はワケのわかんないところで1人一夜を過ごすのだ。

ほどなくして、島々谷林道の入り口についた。もうあたりは真っ暗だったが、車が通れそうなとこ ろを避けて、河原にテントを張った。と同時に大雨が降ってきた。

俺はもう眠ったんだ。もう動けないぞ

そう思ったのだが、ラジオは大雨のためがけ崩れに注意してください、などと報じている。いやな 予感がする。いやな予感がするときは、予感に従うのが賢明だと思うのである。

もう疲労は限界だったが、とにかく真っ暗な中テントを撤収して、島々宿の集落まで戻ることにし た。雨具を着込んで、ヘッドライトをつけてふらふらと歩き、とにかく見つけたのが公衆トイレだっ た。集落の中でテントを張るわけにもいかないので、トイレの軒先でマットだけひいてひっくりか えって寝ることにした。

その昔、日が暮れてから上高地から沢渡の駐車場まで歩いてきて、雨のバス停でひっくりかえっ て着の身着のまま始発のバスを待ったことがあった。夢破れた日だった。
あれから7年か8年かたって、再びおなじ松本の地でおなじようなことをする日があろうとは思わ なかった。人間とは成長しないものである。

(2015.5.7 13:12)(by script)




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